第6回 骨疾患

1.骨代謝と生理

国立感染研筑波霊長類センター 吉田 高志

2.骨基質の測定

新日本科学(株) 角崎 英志

3.カニクイザルの実験的イタイイタイ病の骨病変

三菱安科研(北大獣医学部) 倉田 祥正

4.サルを用いた顎骨再建に関する実験的研究

弘前大学医学部 織田 光夫

5.一リスザルコロニーに集団発生した皮質過骨症

麻布大学獣医学部病理学研究室 宇根 有美

6.サル類における骨疾患の病体:骨軟化症と骨粗鬆症

放射線医学総合研究所 宇宙放射線防護プロジェクト 福田 俊

7.症例報告 リスザルの骨格壊血症,いわゆるターバンヘッドの1例

麻布大学獣医学部 宇根 有美

1.骨代謝と生理

国立感染研筑波霊長類センター 吉田高志

骨の代謝では、破骨細胞による骨吸収機能と、骨芽細胞による骨形成機能とが互いに連関している。この連関の仕方にはモデリング(構築)機能とリモデリング(再構築)機能との二種類がある。成長過程の動物では、吸収された部位とは異なる部位に骨組織を添加し骨の外形を変えて骨成長が進行する、というモデリング機能が働いている。実験動物として一般的な、げっ歯目やウサギ目の動物ではこの機能が生涯継続するとされている。

ところが、成長完了後のヒトやカニクイザルでは、吸収された部位に再び骨が形成されるというリモデリング機能によって骨が維持されている。すなわち、骨は、単なる静的なカルシウムの貯蔵機関ではなく、常に骨形成と骨吸収とを繰り返しながら血液との間に動的なカルシウム平衡を保っている代謝器官である。このことが骨の生体にとっての一義的な意味である。重力に抗して身体を支えることは二義的なものでしか過ぎない。そして、このリモデリング機能が正常に作動していれば骨の形態や骨量・骨密度は変化しない。しかし、閉経や加齢に伴う骨吸収と骨形成とのアンバランスが、骨粗鬆症などの骨の疾患をもたらすものと考えられている。

骨代謝状況を血液や尿によってモニターするために、骨を構成する主要蛋白質である?型コラーゲンの骨芽細胞での合成関連物(骨形成マーカー)あるいは破骨細胞での分解関連物(骨吸収マーカー)が測定されている。

年齢の異なる多数のカニクイザルを対象とし、二波長X線密度測定装置(DXA)による腰椎骨・全身骨の測定の結果と、骨代謝マーカーの測定値について紹介したい。また、メスカニクイザルの骨量が最大(Peak bone mass :PBM)になるのは9歳齢頃である。この時期を過ぎた14歳齢前後の動物で、卵巣摘出を行なった時の骨量変化についても触れたい。そして、卵巣摘出を行なう対象動物の動物種や年齢が結果に及ぼす影響について考察を加える。


2.骨基質の測定

新日本科学(株) 角崎英志

はじめに

サル類の骨基質を測定するには大きく分けて骨量測定と骨形態計測がある.前者は骨基質の量的な評価であり,後者は構造的な評価が主となる.これらの骨基質の測定は,最終的に臨床上で問題となる骨の強さを推定する目的で実施される.

骨基質の測定

 骨量の測定:一般的には,非侵襲的な骨量測定であるX線を用いた測定,なかでもDXA(dual energy X-ray absorptiometry)法が汎用されている.ほかには,QCT (quantitative computed tomography)法もサル類に応用できることが知られている.これらの方法の最大の利点は,非侵襲的に麻酔下で同一個体の測定を経時的に実施できる点である.DXA法は,測定再現性は非常に高く,ヒトの臨床上でも汎用されている.測定対象部位は腰椎,大腿骨,橈骨,全身骨である.一方,QCT法は真の骨密度を測定可能で,海綿骨領域と皮質骨領域の骨密度を別々に測定することできる.その一方で,再現性良くデータを得るためには測定者が熟練している必要が問題点として上げられる.近年では超音波を用いた骨量測定あるいは?-CTを用いた骨量評価法も知られているが,サル類の特にin vivoでの測定報告はほとんどない.

骨形態計測:組織レベルでの計測及び骨動態の解析を通して構造的に解析する.サル類では実験のend point屠殺時に,腰椎,大腿骨,肋骨及び腸骨を採取する.また,中途の適当な時期に肋骨及び腸骨をbiopsyして評価することもある.採取した骨標本は類骨と石灰化骨の判別や骨標識物質の観察が可能な非脱灰標本を作製する.腰椎及び腸骨は海綿骨領域の評価に,大腿骨(骨幹部)及び肋骨は皮質骨領域の評価に用いる.海綿骨領域の評価パラメータとしては,骨量などの面積計測,類骨面及び標識面などの周囲長計測,骨梁間などの距離計測,細胞数などの数計測があり,これらの一次計測データをもとに計算インデックスとしての骨石灰化速度,骨吸収速度及び形成速度などを算出する.一方,皮質骨の評価パラメータとしては,骨量,形成速度などがあり,骨強度に影響を与えると考えられるporosityも算出可能である.

おわりに

以上,サル類は解剖学的あるいは生理学的にヒトに近似しており,薬剤の骨代謝に及 ぼす影響を評価する上で有用である.一方で,サル類の骨基質測定の背景データが豊富 とはいえないことが上げられ,今後データを蓄積し,骨強度との関連性を確認し,評価 に活かすことが必要であると考えられる.


3.カニクイザルの実験的イタイイタイ病の骨病変

三菱安科研(北大獣医学部) 倉田祥正

Reproduction of Primate Model of Chronic Cadmium Toxicosis(サルにおける慢性カドミウム中毒症モデルの作製)カドミウム(Cd)は普遍的に存在する環境汚染物質であり、腎あるいは骨に対する影響が問題となる。近年世界各地で行われた疫学調査の結果、食物や喫煙等を介した人体へのCd暴露状況や体内蓄積と腎尿細管障害や骨萎縮との関連性が指摘され、これらの影響は、本金属を取り扱う職業従事者や本金属に重度に汚染された地域の住民のみならず、一般住民においても認められる。

1968年に我が国最初の公害病として政府から認定を受けたイタイイタイ病(IID)は、最も重篤な慢性カドミウム中毒症とされる。IIDの場合は、岐阜県神岡鉱山(亜鉛、鉛鉱)から流出したCdを含む残土が神通川を汚染したことが原因とされる。今までに富山県の下流域において計183名がIID患者として認定されているが、本病の特徴もやはり尿細管腎症と骨軟化症を伴う骨萎縮である。

IIDとCd長期暴露との因果関係やCdの腎あるいは骨への毒性作用を明らかにするために、多くの研究者が動物実験を試みた。しかし、これらを証明できたものは極めて少なく、特に骨病変に関しては実験的に再現されたことがなかった。

最近我々は、卵巣摘出したラットに塩化Cdを反復静脈内投与することにより、IIDに類似した腎あるいは骨病変を示す慢性Cd中毒症モデルを作出することに成功した。前述の通りIID患者が閉経後の女性に多い事から、骨形成あるいは骨量維持に促進的なエストロゲンの欠乏が本病の骨障害の進展に相乗的に働くと考え、動物には卵巣摘出を施した。また、Cdの消化管からの吸収率が著しく低いことから、静脈内投与を試みた。

今回、カニクイザルにおいて、ラットの場合と同様の方法で慢性Cd中毒症の作出を試みた。特に骨代謝に対するCdの影響を論ずる場合、ラットがモデリング動物であるのに対しヒトを含む霊長類はリモデリング動物であることから、霊長類の病体モデルは極めて有意義なものとなり得る。13?15ヶ月に亘るCdCl2(1.0および2.5mg/kg/day)の反復投与の結果、IIDに極めて類似した腎性貧血、間質の線維化を伴った尿細管腎症ならびに類骨の著しい増加を伴った骨粗しょう症を有する慢性Cd中毒症モデルの作出に成功した。

骨病変の発症には、腎尿細管障害に起因すると考えられる血中無機リンと活性型ビタミンD3の低下、破骨細胞の増加と尿中デオキシピリジノリンの増加に示される骨吸収の活性化ならびに石灰化前線への鉄の沈着に示される骨形成に対する直接的阻害作用の関与が示唆された。本霊長類モデルは、Cd慢性中毒における腎あるいは骨障害発現の機序解明あるいはその治療法の開発に極めて有用であると考えられる。


4.サルを用いた顎骨再建に関する実験的研究

弘前大学医学部 織田光夫

口腔外科では口腔周囲の腫瘍,外傷、奇形といった疾患の治療にたずさわっており、顎骨を切除した後、または当初から欠損している顎骨の再建修復というテーマは口腔外科の研究において重要な部分を占める。実際に臨床で行われている術式の改良、全く新しい術式の開発、新材料の試験に動物実験は不可欠である。また、小動物で成功した術式、材料も人体に応用する前に大型動物への応用を求められることがしばしばである。

顎骨の再建は骨の連続性を回復した時点で終了とは言えず、歯牙を含めた再建を行い、咀嚼機能を回復する必要がある。我々はこの機能的顎骨再建を目標として、骨形成タンパクとチタン製の人工歯根を応用した実験をサルとビーグル犬を用いて行った。サルとビーグル犬では成功する為の条件はかなり異なっており、同じサルでもアカゲザルとニホンザルで異なる結果が得られた。またサルを用いた実験の有用性についても若干のコメント加えて報告したい。


5.一リスザルコロニーに集団発生した皮質過骨症

麻布大学獣医学部病理学研究室 宇根有美

骨幹部(皮質)過骨症は、先天的あるいは後天的にも生じ、骨幹部(膜性骨化部)に一致して過剰な骨組織が添加される疾患で、系統的に主として長管骨が冒される。ヒトではEngelmann diseaseやCaffey diseaseが、動物では皮質過骨症Cortical hyperostosisとして、ブタ、アカゲサルおよびイヌで報告されているが、新世界ザルにおける報告はない。今回、我々は、あるリスザルコロニーで皮質過骨症の集団発生を見たので報告する。

【発生状況】

1990年、推定6カ月齢の12頭のリスザル(Saimiri sciureus:以下SMと略記)を輸入。1999年には3世代まで繁殖が進み、交配のため、他のルートから搬入したSMを入れ、総数58頭となった。第1世代では、導入後1年以内に下顎および四肢の腫大、歩行障害が現れ、経時的に病勢が悪化した。その後、第2・3世代および別ルート搬入の3頭のうち2頭のSMにも発症がみられた。なお、これらのSMは自然光下、ビタミンD、Caを添加した飼料によって飼育されていた。

【材料と方法】

発症コロニーSM58頭中38頭と対照SM1頭をX線撮影装置(東芝製)、μFX?1000(フジカラー社製)及びマイクロ フォーカスCTスキャン(日鉄エレックス社製)を用いて、麻酔下で生体を、剖検後は軟部組 織を除去して撮影し、形態解析を行った。38頭中24頭を剖検し、骨と諸臓器を病理組織 学的に検索した。なお、2頭については経時的に骨の変化を追跡した。

【結果】

性差はなく、発症率は52.6%で、年齢別にみると5歳未満では50%、5歳以上では100%と加齢とともに増加し、病変の広がりとその程度が高度となった。また、第2,3と世代が進むに連れて、発症年齢が高くなった。若齢あるいは初期では、下顎骨と大腿骨が高率に冒され、進行した例では、長管骨および扁平骨の区別なく全身骨格に病変が認められた。個体によって若干の差があったが、病変の程度は前肢では左、後肢では右がより高度で、骨の肥大パターン(限局性、瀰漫性、瘤状)が、部位ごとに異なっていた。すなわち、四肢骨のうち、尺骨と大腿骨は瀰漫性、脛骨と腓骨は遠位端部の限局性肥大の結果、しずく形を呈していた。頭蓋骨は瀰慢性に冒され、下顎骨、尾骨、指(趾)骨は瀰慢性かつ瘤状であった。経時的観察と初期病変の観察により、単純な皮質骨の外骨膜性肥厚に始まり、中期では肥厚した増生骨の中央に新たな髄腔の形成がおき、末期ではさらに髄腔が拡大し、皮質骨の二重化が明瞭となった。本来の髄腔の容積は変わらないか、あるいは拡大していた。また、大腿骨では初期病変は近位端に現れ、趾骨や尾骨の瘤状病変は瀰慢性骨増生病変の上に添加されるように生じていた。なお、関節には異常がなかった。病理組織学的には、著明な外骨膜性造骨が観察された。増生骨の成熟度は、一個体でも部位によって異なり、1本の骨でも新旧の増生骨が認められた。高度に肥大した骨では、正常な皮質骨は消失し、層板構造を持たない不規則な骨組織が形成されており、部位によっては多層性薄板状の骨組織が観察された。造骨の著しい部位では骨梁間に多数の活性化した骨芽細胞が観察され、軟骨や類骨組織はみられなかった。なお、いずれのSMにおいても、腎臓、肺および内分泌組織には著変がなかった。

【まとめ】

SMの本疾患は、骨幹部の著しい骨増生を特徴とするヒトを含む動物の骨疾患のいずれとも一致しなかった。外骨膜性骨増生と本来の髄腔の保持と新たな髄腔の形成は、骨芽細胞と破骨細胞双方の活性化を示唆する所見と見なされた。本疾患が、どのようなメカニズムによって生じるのか、感染因子または環境因子の関与を考え、検索を続けている。


6.サル類における骨疾患の病体:骨軟化症と骨粗鬆症

放射線医学総合研究所 宇宙放射線防護プロジェクト 福田 俊

サル類の骨疾患は自然発症例だけでなく、実験動物として室内繁殖や飼育されるようになってからも、とりわけ骨代謝疾患は外見からは解りにくい疾患であるために、報告は少ない。サル類の骨代謝は、成長期には骨形成が骨吸収よりも優位なモデリング様式を示すが、骨成長停止後は骨形成と骨吸収のバランスがとれたリモデリング様式によって骨量維持の状態に移行する人と類似した特徴を表す。最近になって、骨代謝研究の技術が大きく発展してきた背景もあって、サル類は人の骨代謝様式が異なるラットなどのげっ歯類に代わって、疾患モデルを用いた骨代謝研究に多く利用されるようになり、それらの報告が増加している。研究会では、骨密度測定や定量的な診断方法である骨形態計測法など骨代謝研究によく利用される方法と、代表的な骨代謝疾患である骨軟化症(Osteomalasia)と骨粗鬆症(Osteoporosis)について述べる。骨軟化症(くる病)の症例については、過去に室内繁殖、飼育されていたミドリザルの所見について述べる。この症例は成長中のサルに前肢の湾曲が観察され、X線写真によっても確認された。骨軟化症(くる病)と診断された個体にテトラサイクリンを投与して骨標識した後、生検によって腸骨採取したサンプルを樹脂包埋して非脱灰標本を作成、観察した。その結果、腸骨海綿骨では多量の類骨が石灰化骨と不明瞭な境界を形成しており、その類骨中には不完全なテトラサイクリンラベルが存在し、石灰化不全を示す組織像が観察された。皮質骨では、激しい骨吸収窩と類骨蓄積が認められた。

骨粗鬆症に関しては、老齢カニクイザルの卵巣摘出によって実験的に作成した閉経モデルの非脱灰組織標本の骨形態計測法による定量的な結果の特徴を述べる。卵巣摘出約2年後の第7腰椎では、周期的な月経を認めた個体に比べ、pQCTで測定した骨脆弱化の指標である骨密度や骨強度指数の減少と同時に、骨表面の形成と吸収像が盛んな海綿骨の骨組織形態計測の結果では、海綿骨量の減少と骨梁骨間隙の増加による構造の粗鬆化がみられた。これは卵巣ホルモン欠乏によって骨代謝が高回転型に転じた状態で、骨形成の減少と骨吸収の増加のアンバランスによって生じることが定量的に観察された。

以上のような非脱灰標本を用いた骨代謝疾患に特徴について述べる。


7.症例報告
リスザルの骨格壊血症,いわゆるターバンヘッドの1例

麻布大学獣医学部 宇根有美

サル類は旧世界ザルと新世界ザルに大別され、リスザルsquirrel monkey (Saimirisciurea)は後者に含まれる。新世界ザルは一般にビタミンとカルシウムの要求量が高く、いくつかの欠乏症が報告されており、リスザルの「ターバンヘッド」は、その特徴的な外貌とともに、ビタミンC欠乏症としてよく知られている疾患である。

【症例】

3歳以下の若い雄。2000年6月頃ペットショップより購入。ひまわりの種などの種子を主体とし、時々果実を与えていたところ、7月頃より頭部が変形し始めた。側頭部や頭頂部の瘤状膨隆による変形が進行し、活力低下も認められるようになった。さらに頭部の膨隆部が癒合して、本来の頭部とほぼ同じくらいの大きさに達し、初診の数日前に右側頭部の膨隆部から出血し病巣部が深く陥没した。8月28日麻布大学付属動物病院に上診した。来院時、サルは「ターバンヘッド」と称せられる特異な外貌を呈しており、額から後頭部にかけて著しく大型、不正形の瘤状隆起がやや左側に偏って存在していた。顔の変形は右側で目立ち、頬骨弓上方から側頭部にかけて高度に膨隆、耳根部が後方に変位しており、脱毛が高度で、一部潰瘍化していた。右側頭部膨隆部の一部が深く陥没し、血餅が付着していた。頭部を側面から観察すると、前頭部および右側頭部の膨隆部が前方に張り出していた。膨隆部の一部に骨様の硬化部が触診され、特に頭蓋骨との境界部で顕著であった。頭部X線検査で、瘤状隆起部は壁に骨増生を伴う血腫と診断された。サルは削痩・元気消失し、動きが鈍く、筋力も低下していたが、他の骨格に著変はなかった。 以上の特徴的外貌からビタミンC欠乏症を疑い、アスコルビン酸の投薬とビタミンDとカルシウムの添加量の多い新世界ザル用ペレット、殻付きゆで卵などを給餌するように指示した。投薬と食餌の改善を行ったところ、20日後には、骨増生の顕著であった部分を残して、頭部の瘤状隆起部が縮小し、元気、食欲ともに回復した。

【まとめ】

リスザルはそのかわいらしい外貌から、最近、愛玩動物として飼育数が増加しており、一般開業医が診察する機会も増えている。ある報告によると、全国の開業獣医師を対象としたアンケート調査で、回答2,260件のうち25.6%の獣医師がリスザルの診療経験を持っていた。

今回、紹介したリスザルのターバンヘッドは、不適切な飼養方法すなわち、ビタミンC欠乏によって容易に生じる代謝性疾患で、本例も購入後2カ月足らずで、重篤な病変を形成するに至っている。この疾患に関する情報が普及していなかった以前には、狭いケ?ジ内でのジャンプによる頭部打撲など物理的障害による頭部血腫として診断され、血腫や増生した骨の除去などの外科的治療が行われていた。

ヒト、サル、モルモットおよびオオコオモリは、ビタミンCを合成する能力を持たないため、食餌から摂取する必要がある。サルの種類によってビタミンC欠乏に対する反応は異なり、アカゲザルでは長骨、歯や肋骨を冒すのに対してリスザルでは主として頭部が冒される。ビタミンCは、血管の構造・機能の保持や類骨形成に重要なコラーゲン合成に深く関与しているため、欠乏により歯肉、鼻腔、皮下織、骨膜に出血が起こる。特にリスザルでは、頭蓋骨の骨膜出血が頻発し、血腫を形成する。しばしば、血腫は巨大化し、ターバンを巻いたような外貌を呈し、顔の変形もおきる。通常、破壊された骨膜において骨新生が亢進するため、血腫の壁に広範な骨増生が認められる。ターバンヘッドのように主として骨格に病変が現れる壊血病を骨格壊血病(Skeletal scurvy)あるいは栄養性骨異栄養症(nutritional osteodystrophy)などと呼んでいる。

サルのアスコルビン酸要求量は、日量2mg/kgで、通常5倍量の10mg/kgあるいはそれ以上の給与が薦められおり、ビタミンC欠乏状態が30?60日継続すると症状が発現するとされている。本例では、来院時の健康状態が不良で、採血を行っていないため、血中ビタミンC濃度は測定されていないが、1)ビタミンC欠乏食と考えられる給餌の状況と発症時期、2)特徴的肉眼所見、3)治療と飼養方法の改善により病状が回復したことから骨格壊血病と診断された。治療としては、アスコルビン酸(7.5?25mg/Kg/日)を経口あるいは筋肉内に投与し、血中アスコルビン酸濃度を1mg/100ml程度に維持する必要があるといわれている。本例でも、同様の治療を行い、症状の改善が認められているが、 この治た。