【学術集会報告】第29回サル疾病ワークショップ

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第29回サル疾病ワークショップ

【会期】 2021年7月17日(土)・18日(日)
・ポスター継続展示・講演動画オンデマンド配信:至 2021年7月31日(土)

【開催形式】 オンライン
・プラットホーム: Zoom,ホスト: 岡山理科大学獣医学部

【テーマ】 サル類の疼痛管理・感染症リスク危機管理

【参加費】

早期登録割引期限2021年6月18日金曜日

  • 会員   4,200円
  • 非会員  4,700円
  • 学生   2,000円

通常・当日料金[2021年6月19日以降・含当日]

  • 会員   5,300円
  • 非会員  5,300円
  • 学生   3,000円

【大会長】小野文子 (岡山理科大学)

【主催】サル類の疾病と病理のための研究会

新機軸


この夏,第29回サル疾病ワークショップが開催されました。2020年から延期されていた,実に二年ぶりの特別なワークショップです。

  • オンライン集会 (SPDP史上初)
  • 第37回日本霊長類学会大会との並行開催
  • 自由集会の共催

オンライン集会 (SPDP史上初)

当初は現地開催とオンラインとのハイブリッド形式で開催を目指していましたが,COVID-19の全国的な蔓延状況を鑑み,単独オンライン形式が採用されました。さらに,オンラインのメリットを生かし,会期終了後も全ての講演動画が7月31日までオンデマンド配信されました。また,E-ポスターも全て同日まで継続展示されました。

第37回日本霊長類学会大会との並行開催

毎年同時期に前後して開催されていた日本霊長類学会大会とのコラボレーションが実現しました。どちらかの大会に参加登録すれば,他方の大会にも参加することができるシステムです。懇親会もオンラインながら合同で開催され,個人レベルでも新たな交流が生まれました。

自由集会共催

霊長類学会大会の自由集会企画に参加しました。同学会の保全福祉委員会との共催で,自由集会4「Withコロナ時代におけるサル類との適切な接し方について考える」。7題の演題中,2題をSPDPが企画しました。参加者は主催者発表で150名近くに上りました。

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ワークショップ内容


麻酔と疼痛管理〈Session 1〉

  1. 小動物臨床における麻酔と疼痛管理
    神田鉄平:岡山理科大学獣医学部
  2. 動物園・野外・実験動物の現場におけるサルへの応用と実際
    宮部貴子:京都大学霊長類研究所

■神田先生は麻酔科獣医師としての立場から,伴侶動物の周術期麻酔管理の実際についてご紹介下さいました。技術的なことに加え,終始動物に向き合い,モニタリングすることの意義と重要性について強調されていたのが印象的でした。

■宮部先生はサル類のフィールドと施設内診療現場における麻酔・沈痛法について,文献情報を豊富に加えてご紹介いただきました。動物が感じる疼痛の程度はこれまで観察者の経験を唯一の頼みに行ってきました。サル類では表情を指標とする客観的な基準の策定はまだ道半ばとのことですが,研究の進展が期待されます。

ポスターセッション〈Session 2〉

7題のResearch Presentationsと3題のCPCがオンラインで展示されました。発表者によるフラッシュトークと質疑応答が展開されたコアタイムは,短いながら濃密な時間でした。どれも充実した発表の中から,次の3題が今回の優秀ポスター賞に決まりました。

第29回サル疾病ワークショップ優秀ポスター賞

  • カニクイザルにおける糖尿病性心筋症の免疫学的解析および糖尿病診断マーカーの有用性検討[P04]
    中山 駿矢:日本大学 生物資源科学部 獣医生理/病態生理学研究室
  • ニホンザルおよびアカゲザルにおける胸部単純X 線の撮影体位を最適化するデバイスの製作[P05]
    澤田 悠斗:京都大学 霊長類研究所 (現 一般社団法人 予防衛生協会)
  • 33歳のオランウータンにみられた大脳白質ジストロフィーの1例[CPC02]
    チェンバーズ ジェームズ:東京大学 獣医病理学研究室

【選考委員】

石坂智路,板垣伊織,宇根有美,小野文子,木村展之,木村直人,佐竹茂,山海直,鈴木樹理,外平友佳理 (7名・SPDP役員)

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感染症のリスク危機マネジメント
-サルから人,人からサル,サルからサル-〈Session 3〉

  1. Bウイルスからバイオセーフティへ-20世紀後半を振り返る-
    山内一也:東京大学名誉教授
  2. ヒトからサル類への感染症とその対応
    吉川泰弘:岡山理科大学獣医学部
  3. サル感染症ワクチンプログラム-遺伝子組み換えワクチンによる動物園サルのエルシニア症コントロール-
    宇根有美:岡山理科大学獣医学部

■ご講演の前日に90歳の誕生日を迎えられた山内先生。われわれが今日より所としているバイオセーフティ対策が何故,どのように構築されてきたのか,霊長類センター設立の当事者としての貴重なお話をお伺いすることができました。

なお,山内先生のご好意によりご講演動画を配信させていただくことができました。こちらからご視聴下さい。

【講演動画】山内一也:Bウイルスからバイオセーフティへ -20世紀後半を振り返る-

■伴侶動物であるイヌ・ネコ,産業動物であるウシ・ウマ・ブタ・家禽などと異なり,実験動物や展示動物に分類されるサル類の感染症予防に法的な根拠は乏しいものです。SPDP名誉会長でもある吉川先生にはヒト・サル類共通感染症の各論を概説に加え,そんなサル類を取り巻く法的環境をまとめて詳しくお話いただきました。動物という独立した生命体である一方,ヒトの所有物としての側面も持つサル類を取り巻く法的環境は複雑です。所有者,管理者,取り扱い獣医師,飼育担当者,そして利用者など,様々な立場のヒトが関わるサル類です。どのような法的運用が好ましいのか,動物倫理も重視しながら広く論議する必要があるように思いました。

■SPDP現会長でもある宇根先生は長年取り組んでこられた展示リスザルのエルシニア感染症と,そのワクチン開発を通じた疾病コントロールについてお話しくださいました。そんな簡単な言葉では表現することができない,まさに一つの感染症との闘いの記録との印象を受けました。清掃や消毒といった環境的なコントロールで芳しい成果が得られなかったことから,時間と労力を承知しながらワクチン開発に着手したとのことです。リスザルのエルシニア症の感染源は自然界の保菌動物と目されてはいますが,密な飼育環境や自然環境ではありえない保菌動物との接触機会を作っているのは人間です。貴重な動物種を守るため,この研究がさらに発展し,ワクチンという成果に結実することを望みます。


お知らせ

■動画のオンデマンド配信について

講演動画のオンデマンド配信,E-Posterの延長展示は2021年7月31日をもって終了いたしました。発表内容に関するお問い合わせ,ご意見は発表者までお願いいたします。

■参加者名簿添付電子メールの誤配信事案について

第29回サル疾病ワークショップ会期終了後,参加者用メーリングリストに第37回日本霊長類学会大会と第29回サル疾病ワークショップの参加者リストが誤配信される事案が発生しました。SPDPは参加者に対して事実を報告したとともに,誤配信元である第37回日本霊長類学会大会実行委員会に協力してデータの削除をお願いいたしました。ご協力いただいた参加者の皆様に感謝申し上げます。

報告者:板垣伊織 (SPDP)