サル結核の検査法[追補]

前稿「サル結核の検査法」公表後,寄せられた情報を掲載いたします。

【追加情報1】ウシ型菌精製抗原ツベルクリン (ウシ型PPD) に関して

【追加情報2】市販の結核菌抗体検査キット


1. ウシ型菌精製抗原ツベルクリン (ウシ型PPD) に関して

情報提供者: 吉川泰弘教授 (岡山理科大学獣医学部)

吉川先生から結核菌群のゲノム相同性について詳細な情報をお寄せいただきました。次の資料をご参照下さい。

マイコバクテリア

〈投稿者のリプライ〉- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

吉川泰弘先生

詳細な解説,誠にありがとうございました。
ご指摘の通り,サル類で問題となるのはヒト型結核菌 (M. tuberculosis) の感染です。
そのサル類にツベルクリン試験を実施する場合,ヒト型菌由来の抗原を接種すべきというご意見について,全く同意いたします。ゲノムの相同性が高いからという理由のみでウシ型菌を持ち出すことには全く意味がなく,私もそのようなことを意図した訳ではありませんが,記事を読み返してみるとそのように受け取れる記述も確かにございます。作文が至らなかった所為で誤った情報を拡散する訳には参りませんので,以下に補足させていただきたく返信申し上げた次第です。

あくまで個人的な希望の段階ではございますが,旧化血研ツベルクリン供給停止対策の第一選択として,アメリカなどいくつかの国で汎用されているZOETIS社のツベルクリンによる代替を掲げたいと考えております。このアメリカ製ツベルクリンは純粋にサル用で,由来もヒト型菌単独です。ツベルクリン試験という標準的かつ実績十分な検査法を継続することができ,加えてウシ型菌抗原混在ではなくヒト型菌単独抗原であることを鑑みると,現状では最善の選択肢であろうと考える次第です。

一方でツベルクリン試験には,ご指摘のように精度の点に弱点があります。サルがアネルギーを来さない限り感度の点は相当高いとの印象を持っておりますが,得られた反応が本当に感染の事実を示すか否かをこの検査単独で判定することはできません。大切なのはその弱点,加えてアネルギーによる反応低下の可能性についても念頭に置きつつ,もし反応が認められた場合はどのようにそれを確認するか,検査のフローチャートを予め定めておくことだと考えております。
どの検査法も精度と感度は一長一短ながら,各種検査を適切に組み合わせることにより全体のバランスが最適化され,正しい診断が導かれるものと信じております。これまでの経験から申し上げますと,その取っ掛かりとしてのツベルクリン試験は大変有用です。できることならば,今後も各施設において継続されることを願う次第です。

不幸にして代替ツベルクリンの導入が果たせなかった場合の第二案について,実は決めかねておりました。候補は「Primagam」と「ウシ型PPDによるツベルクリン試験」です。しかし先生のご説明を受け,「Primagam」を次のオプションに据えるべきであろうと心が決まりました。もともと先生はこちらを推されていましたので,最初からそれで納得しておればよかった訳です。しかし私どもの様にサルの保定検診から採材,その後の各種検査に至るまで一人でこなさなければ仕事が回らない零細な施設におりますと,どうしてもそんな複雑なラボワークに手が回るのだろうかと不安に思うのも事実です。
一方でウシ型PPDによるツベルクリン試験は,イランで行われた結核菌感作実験でこそ反応性が確認されているものの,この一報のみに我々の命運を託すのは非常に危険ではあります。少なくとも自然感染例において明確な反応を認め,その上ででヒト型結核菌の感染が確認されたという実例が複数必要に思います。しかし今のところそういった情報はなく,採用の優先順位は現状一段下げざるを得ません。
今後も引き続き情報の検索と発信は進めて参ります。その過程でまたご指導願うこともあると存じますが,その際は何卒よろしくお願い申し上げます。


2. 市販の結核菌抗体検査キット

海外のマカクサル飼育施設において実際に使用しているキットをご紹介いただきました。

製品名: CSA: Simian TB Kit

製造・販売: Intutive Biosciences, Wisconsin, USA

国内販売・代理店: 不明

特徴

  • 結核菌特異抗体を検出するキット
  • 検査対象となる血清の必要量が少ない
  • マイクロアレイ法に基づく:専用の測定装置が必要

結核菌特異抗体検査について (追加考察)

複数種の既知抗原に特異結合する抗体を検出する方法であるため,精度は高い。細胞性免疫を主体とする結核においても,これまで特に活動期における有用性が検討されている。カニクイザルを用いた結核の感染実験においても,ラテント期ないし活動期において抗体の上昇が確認されている [9]。但,ヒト型結核菌の感染によるサル結核は病態に個体差が大きい。同論文でも抗体価の上昇を伴わない感染個体が複数みられていることに留意する必要がある。感度の点を考慮すると,スクリーニングに続くアドホック検査において有用性を発揮する可能性が高いと考えられる。

[9]?Clin Vac Immunol, 15(3), 433?438, 2008.