第11回 循環器

I サル類の循環器における臨床検査

1. 実験用サル類における心機能検査

揚山直英1,鯉江洋1,2,金山喜一2,酒井健夫2,小野文子3,山海直1
(1 基盤研・霊長類医科学研究センター,2 日大,3 予防衛生協会)

2. ホルター心電計によるカニクイザル自然発生性不整脈の解析

坂本憲吾,大谷光嗣,若狭芳男,野村護 (株式会社イナリサーチ)


II サル類の循環器の病態

1. サル類の心臓・血管系に認められる自然発生病変

柳井徳磨,谷口治亮,酒井洋樹,柵木利昭(岐阜大COE野生動物感染症センター)

2. 実験用サル類に認められた心疾患症例

鯉江洋(日本大学生物資源科学部獣医学科)

3. コレステロール負荷による動脈硬化カニクイザル

古藤正男,鈴木繁生,蟹澤幸一,大谷好美(中外医科学研究所)


話題提供

1. カニクイザルSE細胞移植で形成された奇形腫の免疫組織化学的研究

中村紳一朗1,柴田宏昭2,3,下澤律浩3,田中裕次郎2,林聡4,北野良博4,花園豊2,寺尾恵治3
(1 予防衛生協会,2 自治医科大学,3 基盤研霊長類センター,4 国立医療センター)

2. ウマヘルペスウィル スEHV-9のマーモセットにおける病原性(予報)

児玉篤史,酒井洋樹,柵木利昭,柳井徳磨(岐阜大学CEO野生動物感染症センター)

I サル類の循環器における臨床検査
1. 実験用サル類における心機能検査

揚山直英1),鯉江洋1,2),金山喜一2),酒井健夫2),小野文子3),山海直1)

1) 基盤研・霊長類医科学研究センター,2) 日大,3) 予防衛生協会

心疾患,特に心不全や虚血性疾患は世界各国で疫学上大きな問題となってきている疾患であり,その病態解明,新規治療法開発研究はきわめて重要である.近年,実験用サル類の心臓病態作出モデルを用いた前臨床研究も増加する傾向にある.しかし,未だサル類自体の心機能や心疾患について明らかにされたとは言えない.心臓病態学,前臨床研究の観点からもサル類自体の心機能解析と共に,自然発症性の心疾患モデルを抽出することは極めて重要であり,さらに心疾患モデルとしての構築が成されれば,医科学研究への多大なる貢献が期待される.

我々はこれまで霊長類医科学研究センターで飼育されているカニクイザル・アフリカミドリザルにおいて心機能評価基準の樹立,心疾患発生状況調査を目的として心機能検査をおこなってきた.今回はカニクイザル126頭 (雄53頭,雌73頭,年齢1.6 - 36.6歳,体重1.7 -10.0 kg),アフリカミドリザル36頭 (雄11頭,雌25頭,年齢2.4 - 24.1歳,体重2.0 - 5.4 kg)を対象として行った心機能検査の方法およびその結果を紹介する.検査は心エコー図,心電図,胸部レントゲン,心房性ナトリウム利尿ペプチドおよび脳性ナトリウム利尿ペプチドの血中濃度測定を行った.さらに一部の個体には血圧検査,MRI検査も適宜加えて行った.

検査の結果,アフリカミドリザルでは36頭中11頭において拡張型もしくは肥大型心筋症などが疑われる個体が検出された.カニクイザルにおいては心室中隔欠損症,右室二腔症,弁膜症,心筋症,心内膜炎などが疑われる個体が検出された.また,臨床症状を伴わない弁口の逆流を認める個体が多数検出された.今後これら実験用サル類における心疾患の病態解析を進め,心臓病態機序の解明,新規治療法開発研究に寄与したいと考える.さらに,得らい.


2. ホルター心電計によるカニクイザル自然発生性不整脈の解析

坂本憲吾,大谷光嗣,若狭芳男,野村護 (株式会社イナリサーチ)

【目的】

非臨床試験において,薬物誘発性不整脈を検索することの重要性が高まっている.しかし,これまでのサル毒性試験で行われているモンキーチェア拘束下での短時間の心電図計測では,不整脈の詳細な検索は困難と考えられる.また,薬物誘発性不整脈を正しく評価するためには,自然発生性不整脈の解析は重要である.そこで今回,サル一般毒性試験において,無拘束下で比較的長時間の安定した心電図測定を行うことを目的として,ホルター心電計の導入を検討した.初めに,ホルター装着訓練に要する期間を検討し,その後,24時間の連続記録により自然発生性不整脈の発現状況を解析した.さらに,QT延長作用のある塩酸ソタロール投与時のホルター心電図を,テレメトリー心電図と比較した.

【方法】

実験1:カニクイザルにサル用ジャケットを1週間連続着用させて順化後,毎週1回,24時間連続で3週間目までホルター心電図を計測し,ホルター装着の順化状況を観察した.同時に,ストレスの指標として血中コルチゾールを採取した.実験2:ホルター心電計装着順化を行ったカニクイザルを用い,24時間心電図を計測した.不整脈の発現状況を長時間心電図記録解析装置 HS1000 (FUKUDA M-E) を用いて自動あるいは手動で鑑別し,不整脈を各パターンに分類した.24時間ホルター心電図を用いてパワースペクトラム解析を行い,ビーグルと比較した.実験3:カニクイザルにソタロール 5 mg/kg を単回経口投与し,テレメトリーにより心電図を計測した.1ヶ月間の休薬後,再度ソタロール 5 mg/kgを単回経口投与し,ホルター心電図を計測した.

【結果】

実験1:順化1週目の心拍数 (回/分) は,ホルター装着後2時間以内に140以下に低下し,モンキーチェア拘束下の場合 (通常200以上)より明らかに低かった.順化第2およぴ3週の心拍数は,第1週と比べてさらに10ないし20低い推移を示した.ホルター群の血中コルチゾール値は,非順化の対照群と比べ概ね低かった.実験2:カニクイザルで最も多く見られた不整脈は心室性期外収縮で,次いで,洞停止,補充収縮,房室ブロックの順に発現率が高かった.洞停止および補充収縮は消灯時間帯の低心拍時に,また,心室性期外収縮は雄と比べ雌で多く発現する傾向を認めた.副交感神経活動の指標とされる高周波成分(HF),副交感神経により修飾された交感神経活動の指標とされる低周波成分(LF)はビーグルに比べ振幅が小さく低値だった.交感神経活動の指標とされるLF/HFはビーグルに比べ振幅が大きく高値だった.カニクイザルの心拍数変動には副交感神経の影響が少なく,ビーグルのような明瞭な呼吸性不整脈は認められなかった.実験3:ソタロール投与後のQTcは前値と比べてテレメトリーでは約26%,ホルターでは約22%延長した.

【結論】

心拍数および血中コルチゾール値の推移から,1週間でホルター装着に対する順化は可能であると考えられた.ホルターにより,種々のタイプの自発性不整脈をとらえられることが明らかとなった.自発性不整脈の発現頻度には性差,年齢差がみられ,そられは,ヒトに近い傾向がみられた.また,ホルターにより,テレメトリーと同様にソタロール単回投与によるQTc延長が捉えられた.以上のことから,毒性試験における心電図の計測,不整脈の解析には,ホルター心電計が極めて有用であると考えられた.


II サル類の循環器の病態
1. サル類の心臓・血管系に認められる自然発生病変

柳井徳磨,谷口治亮,酒井洋樹,柵木利昭 (岐阜大COE野生動物感染症センター)

サル類の循環器系 (心臓および血管)においては,加齢,感染に関連して,あるいは原因が明確でないものも含めて様々な変化が認められる.特に野生由来のニホンザル,あるいは動物園で長期飼育した各種のサル類の老齢個体にはしばしば病変が認められる.いかに代表例を示す.

1. 心臓

野生個体および動物園で長期飼育した各種サルの個体には,しばしば,心筋にビ慢性の線維化が種々の程度に認められる.また,心筋の高度な肥厚と線維化を伴った心筋症に相当する変化が動物園で飼育したゴリラ,実験室で飼育したリスザルに認められた.このリスザルには大量の大動脈アテローム硬化症もみられた.また,心筋細胞におけるリポフスチンの蓄積も他の動物と同様に加齢に伴い認められる一般的な変化である.

2. 血管

脳血管の石灰化:カニクイザル,ニホンザルなどマカク属,マーモセットの脳には,大脳基底核に左右対称性に球状あるいは塊状のミネラル沈着病変が,血管に関連して発現する.脳実質には障害を伴わないことから背景病変の一つと考えられる.ただし,慢性の感染症により,本病変の程度が増強される場合がある.3から18歳のカニクイザル雄61例,雌73例を検索して,79例 (59.0%)に同ミネラル沈着病変が認められた.3歳から4歳の若い動物にも重度の病変も含めて高率に発生したことから,加齢との関連は明確ではなかった.沈着は,(1) 細動脈および細静脈の血管壁とその周辺における球状から塊状沈着,(2) 小動脈および外膜への細かい顆粒状沈着物である.元素分析では,沈着物から治療のカルシウムと燐,中等量から少量の鉄,アルミニウムおよび亜鉛が検出されている.

アテローム硬化症:飼育下のサル類には種々の程度に動脈のアテローム硬化症が認められる.14年にわたり飲食店の残飯を給餌,ケージ内で飼育したニホンザル2例に認められた動脈のアテローム硬化症を示す.肉眼的に胸大動脈および腹大動脈では血管内壁は粗造でしばしば粥状(プラーク)の沈着が認められた.組織学的に,内膜肥厚と中膜菲薄化により内膜と中膜の厚さが同程度になる部位が見られた.肥厚した血管内膜においては,(1) 泡沫状マクロファージ,(2) 平滑筋細胞の立ち上がり,(3) 脂質沈着,(4) 線維化,(5) コレステリン結 晶沈着など人のアテローム硬化症のそれと共通した病理組織象がみられた.本症例は人の食事の残飯を主食としたことから人とほぼ同様な摂餌状態にあり,運動不足も加えて,血清コレステロール値が上昇した状態,さらに肥満の状態にあったことが考えられた.

3. SIV感染下に認められたサイトメガロウイルス性動脈炎および動脈症

SIV感染下のアカゲザルでは肺に高度な動脈の内膜肥厚からなる動脈症が高率に認められる.まれに,全身臓器の動脈に高度な内膜肥厚と内腔の狭窄を特徴とする動脈症が認められる.この原因としては,サイトメガロウイルスに起因した動脈炎が考えられた.SIV感染下では,無菌性の心内膜炎も希に認められるが直接的な原因は明らかではない.


2. 実験用サル類に認められた心疾患症例

鯉江洋 (日本大学生物資源科学部 獣医学科)

研究の目的

サル類を用いた研究成果は人医学の根本的なデータとなり人類に恩恵を与えている.しかし,サル類の心疾患に対する疾病状況および診断や治療などの臨床的な検討は現在まで全く行われていない.現状のままではその存在を知らずに心疾患を有したサルを使用して集積された研究データも正常なものとして扱われる可能性を有し,人医学に対して与える影響力も大きいものと考えられる.本研究はサル類の心疾患の現状を把握するために行われた.今回の演者は重度の心疾患を有する個体に遭遇したのでその詳細を報告する.

研究の概要

医薬基盤研究所・霊長類医科学研究センターに飼育されている主にカニクイザルを研究の対象とし,同センターで定期的に行われる検診時の身体検査において心疾患の疑いが持たれたサルに対して胸部エックス線検査および心エコー図検査などの画像診断と心電図,血管体液調節機構の一つである血漿中心房性利尿ペプチド(ANP)・脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の血中濃度測定を行った.

研究結果

1) カニクイザルに認められた筋性部心室中隔欠損症の1例

2歳2ヶ月齢の雄のカニクイザル (体重2.1 kg),定期健康診断時に右前胸部を最強点とする心雑音 (Levin IV/VI)が聴取された.一般臨床状態に特記すべき問題は存在しなかった.心電図検査では低電位を示し (第II誘導:R波 0.33 mV,S波 0.15mV),電気軸は76°であった.

一般にサル類の心電図は低電位を示す報告があるが,カニクイザルでも同様の傾向がみられた.心エコー図では心室中隔筋性部より右室内へ流入する乱流像が確認された.同部位の血流を連続波ドプラ法で測定したところ 5.0 m/s (圧較差 100 mmHg)の高速血流の存在が確認された.また左室短軸像において乱流が確認された部位の右室側中隔面に陥没所見が認められた.また左室短縮率は41.8%を示し,正常範囲であると思われた.なお左心房拡張の指標となっているLA/AO比は1.76を示し,軽度拡張が確認された.本症例は現時も経過を観察中である.

2) カニクイザルに認められた後天性右室二腔症の1例

9歳齢の雄カニクイザル (体重 4.2 kg),定期健康診断に左側胸部を最強点とする心雑音(Levin III/VI)が聴取された.臨床症状は元気消失,食欲低下,削痩を呈していたが,2年前の定期健康診断では異常は認められなかった.心電図検査では低電位を示し(第II誘導:R波0.32 mV)電気軸は106°であったが正常範囲と思われた.胸部エックス線検査では右心系の拡大所見が認められた.心エコー図検査では右室流出路に高エコーの腫瘤塊が認められ,胴部位より高速乱流が肺動脈内へ流入 (2.5 m/s)していた.なお肺動脈弁は正常であり,左心室は右室圧の上昇のために扁平化していた.右心房は右心系うっ滞のため重度に拡張していた.初回の検査より3ヶ月後に状態が悪化し,下肢および陰嚢部浮腫,腹水貯留が認められ,その後死亡した.心臓肉眼所見は肺動脈弁下1cmに非常にもろい腫瘤塊が形成され,右心室は重度の肥厚,重度右心房拡張,肺動脈弁は正常,三尖弁にも小さな腫瘤塊が認められた.組織学的検査で腫瘤塊は血栓であることが証明された.原因不明の凝固系亢進により右心室内血栓が形成され,右心室腔を二分したものと推測した.結晶心房性ナトリウム利尿ペプチドは初回検査では49.9pg/mLであったが,状態の悪化により106pg/mLへ上昇した.また血漿脳性ナトリウム利尿ペプチドも,初回検査時に19.1pg/mL,死亡直前では67.3pg/mLへ上昇し,循環器検査として有用であると思われた.

まとめ

今回の2疾患の発見により心電図,胸部エックス線,心エコー図検査が生前診断に有用であることが確認された.サル類の心疾患の現状はヒトおよびコンパニオンアニマルと異なりほとんど把握されていない.またカニクイザルにおける先天性・後天性心疾患の生前診断の報告はほとんど行われていない.今回,心エコー図検査および心臓血管ホルモン(ANP・BNP)測定はサル類においても有効な検査法であることが確認された.今後はさらに継続して本疾患の遺伝的調査並らかにしてゆきたい.


3. コレステロール負荷による動脈硬化カニクイザル

古藤正男,鈴木繁生,蟹澤幸一,大谷好美 (中外医科学研究所)

動脈硬化症は生活習慣病として脳溢血や心筋梗塞といった高い死亡原因の基礎疾患として問題視されている.コレステロールを負荷した飼料で飼育したカニクイザルの1例が死亡し,剖検したところヒトの病態に酷似した動脈硬化病変が見られたので報告する.なお,死因は動脈硬化病変との関係は不明である誤嚥による窒息死であった.

【材料と方法】

4?5歳齢の中国産カニクイザル雄,複数例に4年間,2%コレステロール負荷固形飼料を給餌した.定期的に体重測定と血中総コレステロールを測定した.死亡例を病理解剖した.ホルマリン固定後,定法によりHE染色標本を作製した.

【結果】

コレステロール負荷固形飼料の給餌を開始したところ,血中総コレステロールは700mg/dL以上に一旦上昇し,2ヶ月以降は200?400mg/dLを維持した.開始時3kgであった体重は,漸増し死亡時には7kgに達した.

肉眼所見では,胸部大動脈から腹部大動脈にかけて,全面にわたり血管壁の肥厚がみられた.血管内膜面には,灰黄色の丘状の隆起が長軸にそってみられ,隆起は腹部大動脈でより著明であった.

組織所見では,胸部から腹部大動脈にかけて,線維脂肪性粥腫(fibrofatty atheroma)が病変の主座を示していた.即ち,胸部大動脈では,内膜は基質の増加により著しく肥厚し,内皮直下に脂肪滴の沈着と脂肪滴を貪食したマクロファージとリンパ球の浸潤が軽度にみられ,いわゆる線維斑(fibrous plaque)が観察された.胸部大動脈では,上記胸部でみられた病変が増強してみられ,脂肪滴を貪食したマクロファージ浸潤下層にコレステリン結晶および顆粒状?板状の石灰沈着がみられた.さらに,Necrotic coreを中心に周囲を結合組織で覆う線維性蓋(fibrous cap)が限局性に観察された.冠状動脈では,器質化した閉塞性血栓がみられた.

【考察】

本病変は,ヒト粥状動脈硬化性病変のV型(線維性粥腫病変)に類似していた.げっ歯類では血管病変に明確な粥状動脈硬化性病変を認めるには至らず,病態モデルとしては今回示したカニクイザルやミニブタなどが重要な役割を果たすと考える.


話題提供

1. カニクイザルSE細胞移植で形成された奇形腫の免疫組織化学的研究

中村紳一朗 1,柴田宏昭 2,3,下澤律浩 3,田中裕次郎 2,林聡 4,北野良博 4,花園豊 2,寺尾恵治 3
(1 予防衛生協会,2 自治医科大学,3 基盤研霊長類センター,4 国立医療センター)

サル類のES細胞はマウスのそれに比べ,ヒトと類似しており,再生医療を展開する上で有用と考えられている.しかしその応用のためには品質の適切なモニタリングが必要である.すなわち自己複製能と三胚葉性分化能という異なるベクトルの保持が求められる.このうちES細胞の多分化能は,適切な動物への移植実験を行い移植部位における奇形腫形成で検証可能である.本研究ではES細胞の移植先が同種動物または異種動物に関わらず,形成される腫瘍が三胚葉への分化を示す奇形腫であることを確認,用いられたES細胞が分化能の観点で適切な品質を持っていることを証明する.GFP遺伝子を発現するカニクイザルES細胞(CMK6G)を免疫不全マウス(異種)またはカニクイザル胎仔肝臓(同種)に移植し,それぞれに形成された腫瘍の性状を組織学的ならびに免疫組織化学的に検索した.

マウスに形成された腫瘍は充実性と嚢胞状の部分が混在し,神経管,腺,骨,平滑筋,血管などに類似する構造を認めた.それぞれの構造に一致してGFPが陽性だった.さらに神経管様構造の周囲の細胞はNSEに,平滑筋様構造の細胞はSMAに,腺様構造の細胞はAFPに対して陽性だった.一方,カニクイザル胎仔細胞に形成された腫瘍は,肉眼的に嚢胞状を呈し,不整かつ大小不同の腺腔構造と,腺腔同士の間に平滑筋様の構造が観察された.これらの構造はいずれもGFP陽性だった.また不整な腺腔構造はNSEとAFPに,平滑筋様構造はSMAに対して陽性だった.異種マウスと同種カニクイザルに形成された腫瘍は,肉眼的性状は異なるものの,免疫組織化学的プロフィールとしていずれも三胚葉を持つ奇形腫であった.本研究で用いたCMK6Gは,ES細胞として適切な分化能を保有していたことが明らかとなった.


2. ウマヘルペスウィルスEHV-9のマーモセットにおける病原性(予報)

児玉篤史,酒井洋樹,柵木利昭,柳井徳磨
岐阜大学CEO野生動物感染症センター

EHV-9はトムソンガゼルの集団脳炎例から分離された新種のウマヘルペスウィルスである.EHV-9は,経鼻感染によって,げっ歯類,ヤギ,ブタおよびネコにおいて致死性脳炎を引き起こすことは,すでに本学会で報告した.今回,EHV-9の霊長類における病原性を明らかにするために,コモンマーモセット(Callitbrix jaccbus)に経鼻摂取し,病原性を検討したので報告する.2歳から4歳齢の雌雄マーモセット4匹に106pfuのEHV-9をそれぞれの個体1mLずつ経鼻接種し,臨床症状を観察したところ,接種後3および5日目に各1例,4日目には2例が瀕死状態であったため,安楽死後,剖検を行った.臨床的には,接種3日目から沈欝が認められ,4日目には強直性痙攣などの神経症状が認められ,次いで昏睡状態に陥った.剖検では,肉眼的異常は認められなかった.組織学的には,全例の鼻腔粘膜および大脳において壊死および炎症が認められた.嗅球および大脳では,神経細胞は広範な壊死に陥り,変性細胞の核内にはしばしば抗酸性から両染性の核内封入体が認められた.免疫組織化学的には,変性した神経細胞の核内および細胞質内にEHV-9抗原陽性反応が認められた.また,一部の例では囲管性細胞浸潤およびグリオーシスが種々の程度にみられた.鼻腔では,鼻粘膜に炎症細胞が多発性に認められ,しばしば粘膜上皮細胞に核内封入体がみられた.以上の結果から,EHV-9は経鼻感染によりコモンマーモセットに脳炎を引き起こすことが明らかにされた.霊長類を含めた種々の哺乳類がEHV-9に感受性を示すことから,同ウィルスによるエマージング感染症の可能性が示唆された.本研究は21世紀CEOプログラムによる.エマージング感染症の可能性が示唆された.本研究は21世紀CEOプログラムによる.